「クラスメイト」

ブログのネタがないので、以前から趣味でやっている歌詞解釈でも文字に起こしてみようと思う。

 

記念すべき第1回は、わたしのいちばん好きなバンドのひとつであるMr.Childrenからだ。両親の影響で、ミスチルは小さい頃から車の中でかかっていたし、中学時代からは自分のウォークマンに入れて自主的に再生するようになった。最近久しぶりにミスチルの曲をかけてみたら、何度も何度も聴いていたおかげで、未だにそらで全部すらすらと歌詞が口をついて出てくることに驚いた。童謡か何かか。

 

21歳になってミスチルを聴いてみると、中学時代の自分には、歌詞の意味が全然理解できていなかったんだな、ということがよくわかった。人生についての歌も、恋愛の歌もそう。 桜井さんの紡ぐ歌詞の意味を少しだけ実感できるようになったことを嬉しく思う一方で、自分がなんだかずいぶんとすれた人間になってしまったような気がして、ちょっとだけ悲しく思う。

 

理解できていなかった歌詞の中でも最たるものは、性的な描写や、不倫や浮気についての詞だ。ミスチルには不倫や浮気を歌った曲が何曲かあり、昔のわたしはボーカル桜井さんのどこか気だるげで、でも吹っ切れたような歌い方が好きでよく聴いていた。ただ、「これは浮気を歌っているんだなぁ」くらいのレベルでしか理解できていなかったと、色々な恋愛を見聞きした今となっては思う。いや、いまのわたしにもたぶん半分弱しか理解できていないだろう。

 

……前置きが長くなってしまった。今回はそんなミスチルの浮気ソングの中でもわたしが特に好きで、昔からよく聴いていて、最近聴き直してみて新たな気づきが多くあった「クラスメイト(1994)」を取り上げたい。

 

多忙な仕事あってこそ優雅な生活
なのにやりきれぬ Oh sunday morning
愛を語らい合って過ごしたいけれど
悩める事情にさいなまれ

出だしの歌詞はこんな感じだ。この曲の主人公は「多忙な仕事」をしていて、「優雅な生活」を送っているということで、そこそこ社会的地位も高いのだろう。そんな主人公が、日曜日、休日の午前中にやりきれない思いを抱いている。「愛を語らい合って過ごしたい」ということはそれは恋愛の悩みなのだろうが、一体なんなのだろう。それが次のフレーズで明かされる。

 

陽は傾き街は3時 少し遅い君とのランチ
後ろめたさで微かに笑顔が沈んじゃうのは
仕方がないけれど

主人公は、「君」と一緒に少し遅いランチをとる。「3時」と「ランチ」で踏まれた韻が心地よい。灰色がかったオレンジのような空の色彩が思い浮かぶ。それはきっと主人公の心の色にも似ているのではないだろうか。主人公と「君」とは、「後ろめたさで微かに笑顔が沈んじゃう」というフレーズからわかるように、後ろ暗いところのある関係なのだ。「君」とのランチが少し遅くなるのは、おそらく「君」がお昼頃まで本命の彼氏と過ごしていたからなのだろう。(主人公と会うまでお昼ご飯を食べていないということは、前日・土曜日は仕事終わりの彼氏の家に泊まりに行っていて、日曜日は休日だからとゆっくり寝てのんびり彼の家を出た…みたいな状況なのではないかと邪推する。)

 

3ヵ月前の再会から思ってもない様な急転回
今じゃ もっと彼女に恋をして
もう 振り出しに戻れるわけない
「ただのクラスメイト」
そう 呼び合えたあの頃は a long time ago

サビの歌詞。「3ヵ月前の再会」は同窓会か何かだろうか。昔ほんのり想いを寄せていた相手だったのかもしれないし、久しぶりに会ってみたら想像より話が合ったのかもしれないし、もしかしたら「君」は彼氏とあまりうまくいっていない時期で、恋愛相談を持ちかけたのかもしれない。いずれにせよ主人公は「今じゃ もっと彼女に恋をして」「もう 振り出しに戻れるわけない」ところまで来てしまったのだ。出会ってしまい、惹かれ合って繋がってしまったふたりは、もう「ただのクラスメイト」には戻れない。恋愛というのはそういうものだ。一度恋の相手になってしまったら、別れても特別になってしまって、もう元のような友達にはなれるはずはない。

 

何度も話し合って決めたルールでも
このままじゃ彼女 かわいそうさ

2番に入る。ここの「彼女」はsheすなわち「君」とも主人公のgirlfriendともとれるが、文脈的におそらく前者の方だろう。中学時代のわたしは、girlfriendの意味でとっていたために、この曲のふたりはお互いに本命の恋人がいる状態で付き合っていて、どちらも浮気をしているという状況なのだという解釈をしていた。たぶんそうではなくて、主人公が一方的に浮気相手にされていると言った方が正しい。まあどちらも悪いのだが、どちらかと言えば直接本命の彼氏を裏切っている「君」の方が罪は重い気がする。本命彼氏にバレないように決めたルールのために、ふたりはなかなか会えないし、連絡をするにも気を遣う。一方的に浮気相手にされている主人公の方が「君」よりはかわいそうな気がするのだが、相手の方をかわいそうだと思ってしまうあたりに、ちょっと弱気で情けない主人公の像が浮かぶ。

 

もうじき来る 君のBirthday
迷わず僕だけを選んで
ごめんよ いつも困らすばかりで
しばらくは彼の話はやめとこう

最近この曲を聴き直していたときに、ここの歌詞に「いやそれはないやろ」と突っ込んでしまった。「君」が自分の誕生日を一緒に過ごす相手として、浮気相手である主人公を選ぶわけがない。おそらく「君」は誕生日の当日は彼氏と一緒に過ごして、主人公は3日後くらいにこっそりお祝いすることになるのだろう。そんな気持ちをぶつけて「君」が困るのも当然だ。でも、そんなことをしてくれるはずがないのはわかっていながら、「僕"だけ"を選んで」という心の奥底の言葉が出てきてしまう主人公の気持ちもよくわかる。大人であっても、好きな人にだけはわがままをぶつけたい。

これはどこかで読んだブログの受け売りなのだが、「しばらくは彼の話はやめとこう」には「しばらく別れの話はやめとこう」という意味が掛かっているという説がある。あまりにも巧みで、さすがミスチルだ、と思った。会っている間だけでも忘れていたいはずの「彼」の話をついしてしまうのはなぜだろう、さもしい嫉妬心のためであろうか。「彼」の話ができるあたり、もしかしたら主人公は「彼」のことを多少知っているのかもしれない、だったらなおさらつらいだろうな、などと邪推は膨らむ。つらいのに、「彼」への後ろめたさもあるのに、「しばらく別れの話はやめ」てしまう。いつかしなければならないさよならを後回しにしてしまう、どうにもならないふたりだ。

 

君といれば他のどんなものも
ささいな事に思えてくる
今までのキャリアもわかるけど
ねぇ 何もかも委ねてくれないか
寂しげな街の灯が消えぬ間に
I wanna hold you again

2番のサビだ。多忙な仕事をし、優雅な生活を送っていて、それなりに社会的地位も高いはずの主人公が、「君といれば他のどんなものも ささいな事に思えてくる」くらいに、浮気相手にされている「君」のことを愛しているのだ。「今までのキャリアもわかるけど ねぇ 何もかも委ねてくれないか」という歌詞から察するに、「君」は仕事が充実しているうえに彼氏もいる、しっかりとした女性だ。そんな彼女にまた「何もかも委ねてくれないか」というわがままな願いを抱いてしまう主人公はやっぱり情けないが、共感はせざるを得ない。「委ねる」という響きが「寂しげな街の灯が消えぬ間に I wanna hold you again」の2行と相まって、なんともセクシーだ。

 

明け方の歩道「じゃね またね」と彼女
走り去るTAXI
マンションのベランダに立って手を振る僕
たまらなく寂しい

結局ふたりは主人公の部屋で朝まで一緒に過ごしてしまったらしい。「君」が朝方に帰っていく場面でこの曲は締めくくられる。「じゃね またね」という軽い挨拶からは、「君」がまたすぐに主人公に会えると考えていることがうかがえる。このふたりの後ろめたく脆い関係性は、しばらく続いていくのだろう。それに対して主人公は、わざわざマンションのベランダに立って手を振って、名残惜しそうに「君」を見送っている。「たまらなく寂しい」という本音がつい出てきてしまう主人公はやっぱり情けないが、どこか憎めない。

 

Uh sunday night to monday morning from…
そして 今日も街は動き出す
行き交う人並み
from sunday night to monday morning…

街の風景の中に溶け込む、訳ありのふたり。ふたりが一緒にいられるのは、日曜日の夜から月曜日の朝までのわずかな時間だけ(それも、おそらく彼氏にバレないようにするために毎週会うわけにはいかないだろう)。それ以外の時間は「君」は彼氏のものだ。でもこの儚い一瞬だけは、自分のことだけを見ていてほしい。その間だけでも自分のものになってほしい。そんな主人公の気持ちを想像してしまう。

 

 

以上でMr.Children「クラスメイト」の歌詞解釈は終わりだ。解釈というより、ただの感想になってしまったが。具体性からありありと情景が浮かび上がってくる歌詞はとても秀逸だけれども、浮気というシチュエーションを想像しながら歌詞を読み取るのにえらく疲れた。この曲は歌詞の良さはもちろんだが、ボーカル桜井さんの気だるげな歌声から漂うえも言われぬ雰囲気があって初めて完成するものだと思う。ぜひ原曲を聴いてみてほしい。