拝啓、夏があまり似合わなかった君へ

君を好きになったのは、昔々の文化祭の日だった。あのとき、ふらりと現れた君がわたしだけに声をかけて去っていったという思い出を忘れることができない。

それからは長らく君のことを想い続けていた。ご飯にも誘ったし、何度か用事を作って連絡をした。叶わぬ恋だということはわかっていても、なかなか諦めることができなかった。君のことを忘れようと、ほかの恋に走ったこともあった。でも結局ダメで、何度も君への想いに帰ってきてしまったのだった。君はそんな失恋の痛みを癒してくれさえした。

 

君は本当によくわからない人だった。君についてわたしが知っていたことはほんのわずかで、時にはそれすら疑いたくなることがあった。それでも、君と過ごす時間は楽しくて、話したくて、少しでも一緒にいたかった。わたしの胸も痛かったが。

姑息で孤独な君が嫌いで、でも好きで、そんな自分も好きだったのだ。

 

君に一度だけ想いを伝えたとき、君はYESともNOとも言ってくれなかった。

 

君と2人きりで会ったある夏の日のことを、わたしはよく覚えている。あの日、滅多に自分のことを話さない君がぽつぽつと自分の話をしてくれたことが、わたしは嬉しかった。君が「みゅうさんといると楽しい」と言ってくれたという思い出と、2枚だけ撮った君の写真をわたしはなかなか捨てることができない。叶わなかった「また2人で会いましょう」という約束も。

 

でも、わたしには「君と一緒にいる」という選択肢を取り続けることが、どうしてもできなかった。好きで好きで好きなのに、その想いが叶わないことが、君がわたしを好きじゃないどころかわたしに1mmも興味を持っていないことが、つらくて耐えられなかった。

 

君はあの夏の日、自分のことを人間不信だと言った。わたしは君の人間不信に拍車をかけるようなことをしてしまったのではないかと、それが不安でならない。君に正直な気持ちを打ち明けることが、どうしてもできなかった。傷つけたくないと願うあまり、君のことを余計に傷つけてしまった。わたしには君に謝る資格すらないと思っているが、これだけは言わせてほしい。本当に、本当にごめんなさい。

 

君のことを好きでいたあの頃、「この恋が途切れたときにはすべて忘れて生きていこう」と思っていた。君に恋する想いはもう途切れてしまった、まだ君はわたしにとって大事でかけがえのない存在ではあるが。さあ、君のことをすべて忘れて生きていこう、というところだが、どうしても全ては忘れることができなくて、こんな風にグダグダと文章を書いたりしている。

 

拝啓、夏があまり似合わなかった君へ。

わたしはそれなりに、いやかなり今日もロクデナシでいます。また君に会えたら、ちゃんと挨拶をして、直接謝って、元どおりの関係性に戻ることができればと思っている。いや、君がそれを許さないのなら、わたしのことなんて忘れて、無視していてくれればいい。いつか君が本当に信じられる人に出会って、素敵な関係を築いてくれるといいな、なんて思う。君の幸せを、わたしはただただずっと願っている。